SLLing-Net [手話文法研究室] Sign Language Linguistics Net: by ICHIDA Yasuhiro

 
手話言語学用語集 [随時更新中:必ずしも重要度ではなく、おもに芋づる式に項目を増加中。最終更新日:2005/05/22
   [] [] [] [] [] [] [] [] [] []  [英数
【あ】

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アムステルダム声明(/宣言)
 ─せいめい(/せんげん)
Amsterdam declaration
2000年アムステルダムでのTISLR7を契機に研究者有志によって出された声明。TISLR7開催中に、ろう研究者が会議に十分にアクセスできていないとして、研究者有志による緊急会議が開かれ、この声明につながった。声明は、学術的な内容に関しては国際手話による通訳では十分にアクセスできないとし、当面の間、学術的な国際会議においては公用語としてアメリカ手話とイギリス手話を採用することを提案している。
イマージョン
immersion
目標言語の環境に完全に浸ること。そうしたことを意図した教育やプログラム。1965年にカナダ・モントリオール郊外の小学校で英語を母語とする子どもにフランス語で授業をするプログラムとして始まった。第二言語で授業を行うことで、子どもをバイリンガル・バイカルチュラルに育てると同時に、言語能力の発達、創造力、多面的な思考力を高めるとされ、各国で実践されている。形式ではなく内容に焦点をあてた時にこそ第二言語の習得が進むというナチュラル・アプローチの理論によっても支持される。アメリカ・メリーランド州には聴児に手話で授業をするイマージョン・プログラムを実践する公立学校がある。また、ろう教育におけるバイリンガル教育は読み書きによるイマージョン教育である。最近は高等教育における外国語教育の一環として週末を目標言語のコミュニティで過ごすプログラムをさすこともある。
インテグレーション
integration
統合。全体の中に組み込むこと。障害児教育の分野では、障害児を障害児学校ではなく、地域の普通校に通わせることをさす。「メインストリーミング」という用語も、ほぼ同じような意味で使われる。ろう教育におけるインテグレーションは昭和40年前後から急速に増加し、ろう学校児童生徒の激減を招いた。ろう児にとってインテグレーションはろう児コミュニティから切り離されることを意味し、ろう児たちにセミリンガルやセミカルチュラルの可能性という重大なリスクを背負わせる。「障害者の機会均等化に関する基準規則(国連総会決議48/96、1993年12月20日採択:規則6-9)」や「特別なニーズの教育における原則、政策、実践に関するサラマンカ声明(ユネスコ、1994年6月10日採択:II-A-27)」は、全体としてはインテグレーションを推進する内容でありながら、ろう教育は例外的に、ろう学校での教育が適切である“かもしれない”とした。さらに、2001年9月の「基準規則」改訂案では「かもしれない」の部分が削除されている。[基準規則改訂案(全日本ろうあ連盟サイト)][サラマンカ声明全文(すももの会サイト)
音韻(論)  おんいん(ろん)
phonology
すべての言語がもつ、それ自体意味をもたない少数の単位(音素、弁別素性)の組み合わせで、たくさんの意味のある単位(語、形態素)を作り出すしくみのこと。手話言語は物理的には“音”を使わないが、同等のしくみをもつので、そのようなしくみに対して“音韻(論)”という用語を用いる。初期の手話研究者はこの用語を適用せず、独自の用語を提案していた(Stokoe1960による "cherology"、米川1984による「手話因子(論)」など)。なお、手話の音韻的単位のパラメータには、手の形、向き、位置、運動があるとされる。
【か】

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クレオール
creole
成人がピジンを話す社会など不十分な言語入力のもとで育つ子どもが、自らの手で新しく生みだす言語。人間の子どもに生得的に備わった言語本能が発動した結果とされる(ビッカートン1985ピンカー1995)。世界各地で別々に誕生したクレオールが互いによく似ているのも、クレオールには人間言語に普遍的な文法構造が直接的に反映するためとされる。なお、クレオールの創出には同じ条件を共有する子どものコミュニティの存在が不可欠であり、すべての新しい手話言語は、ろう児コミュニティの成立と(手話法であれ、口話主義であれ)不十分な言語入力という二つの条件が整うことによって生まれると考えられる。1980年以降にクレオール化がおこったニカラグア手話は世界でもっとも新しい言語であるとみなされており、調査プロジェクトが継続されている。参考文献:西光義弘1998
原型言語  げんけいげんご
protolanguage
記号使用訓練を受けた類人猿の発話、2歳未満の子どもの発話、幼年期に言葉を奪われた大人の発話、ピジンの話者の発話という4領域に共通した形式のこと。ビッカートンの用語。文法構造、とりわけ複文構造を欠いている点が真の言語と異なる。意思疎通の手段としてそれなりに機能する一方で、伝達できる思考内容が構造上著しく制限されている。孤立した聴覚障害者が用いるホームサインも原型言語の一例であると考えられる。手話言語は言語学的研究によって真の言語であることが明らかにされてきたが、それまではまさに原型言語のようなものであると誤解されてきたのである。参考文献:西光義弘1998ビッカートン1998
言語権  げんごけん
linguistic rights
基本的人権のひとつとしての言語に関する権利。すべての人が自分の言語を話し、公的な場で使用し、また学校などの教育機関で学びかつ教えることができる権利。ろう児の言語権については小嶋勇2004を参照。[東郷雄二2001][言語の権利に関する世界宣言(日本語訳)(CCC研究所訳/危機言語のホームページ)
口型  こうけい
mouth pattern
手話言語の構成要素のひとつで、唇の開き方や合わせ方、舌の位置などによって作られるパターン。手話言語独自の口型である「マウス・ジェスチャー(mouth gesture)」と、音声言語由来の口型である「マウジング(mouthing)」に分けられる。
口話主義  こうわしゅぎ
oralism
ろう教育において口話ができることに最大の価値を置く考え方。口話とは読んで字のごとく、口で話すこと。自ら声を出して話す発語と、相手の話を口の動きから読み取る読話、残された聴力を最大限に生かす聴能からなる。口話主義においては、口話ができることが究極の目標であると同時に、読み書きの能力をはじめ、すべての教育の前提であるとみなされている。そのため、教育の場が口話訓練の場にすり替わってしまう傾向が強く、結果として学力の遅れにつながることが多い。ろう児の聴覚障害が重度であれば、口話では自然な言語獲得は生じず、多くの場合、ろう児はろう児コミュニティから手話言語を母語として獲得する。ろう児コミュニティにおける手話言語の伝承が不十分であれば、再クレオール化が起こる。臨界期前にインテグレーションなどによりろう児コミュニティから切り離されれば、セミリンガルのリスクが高まる。
コーダ
coda
ろうの大人のもとで育った子どものこと。"children of deaf adults"の略。聴者でありながら、手話の母語話者となりうる存在。生育環境によって手話の獲得状況やアイデンティティは多様である。バイリンガルに育ったコーダの中には、手話通訳者などデフコミュニティに関わる仕事を選ぶ者も少なくない。1983年に創立されたコーダの国際団体"CODA International"があり、そのトップページには「コーダの体験はどの国に行っても驚くほど似ている」という一文が掲げられている。日本ではD PRO設立(1993年)前後にようやく組織化の動きが始まった。コーダに関する文献にはプレストン2003、その訳者澁谷智子氏の修士論文(2000)澁谷2003、自身がコーダである著者による丸地2000宮澤2002などがある。[CODA International][J-CODAかながわ
コード・スイッチング
code switching
相手、場面、内容などによって二つ以上の言語を切り替えて使用すること。手話言語話者であるろう者のコミュニティは、手話言語と音声言語(または読み書き)とのバイリンガル社会であり、日常的に二つの言語の間でコード・スイッチングが行われる。そして、それはたいていの場合、無意識的におこる。なお、コード・スイッチングは個人的・個別的な言語の使い分け(切り替え)をさし、社会的な使い分けはダイグロシアと呼ばれる。
国際音声字母/国際音声記号
International Phonetic Alphabet, IPA
世界中の音声言語の音声を統一的に表記するための記号。国際音声学会が提案している。最新版は1993年版。[国際音声学会][SILのIPAフォント
国際手話  こくさいしゅわ
International Sign
ヨーロッパを中心に自然に発生し、ろう者同士の国際交流で用いられているピジン手話。世界ろう連盟が特別委員会を作り制定しようとした世界共通手話「ジェスチューノ」とは別のもの。ろう者の国際会議で公式に用いられるほか、ろう者同士のインフォーマルな国際交流にも用いられる。ピジンであるがゆえに、真の手話言語がもつような正確性、効率性は望むべくもないが、ろう者の国際交流の中で一定の役割を果たしてきた。もちろん、その限界は正確に理解されるべきであり、各国の手話言語の代わりを果たすことはできないこと(国際手話通訳が準備されることによって各国の手話言語の通訳が不要になるわけではないこと)、正確性・厳密性が要求される科学的な議論には適さないこと(アムステルダム声明を参照)が強調されている。"International Sign" という名称にも、真の言語 "International Sign Language" ではないという意図が込められている。参考文献:スパラ/ウェブ2002ムーディ2004。[ムーディ2004序文(全日本ろうあ連盟サイト)
【さ】

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再クレオール化  さいくれおーるか
recreolization
クレオール社会では上層言語との接触が長く続くと上層言語へのシフトが完了して脱クレオール化することもある一方で、民族意識の高揚などにより、クレオールの独自性にアイデンティティを求めて上層言語との違いが強調され、クレオールに上層言語から遠ざかる動きが生じることがある。このような動きをさすのが、この用語の一般的な用法である。一方、手話研究においては、手話言語の伝承が不十分である場合に文字通り“再びクレオール化が生じること”をさす(Fischer1978, Newport1981)。クレオールにはクレオール特有の共通性があるが、通常数世代を経るうちに言語変化によってクレオールとしての特徴を失っていく。ところが、手話言語は多くの場合ろう児コミュニティの子どもたち同士の間で伝承されること、しかも乳幼児期に手話にふれる機会を与えられないろう児が多い(通常の母語獲得と同様に、乳幼児期から家庭で手話言語を獲得することのできるデフファミリー出身のろう児は全体の10〜15%程度である)ことなどから、言語伝承の基盤が脆弱で言語入力が不十分になりやすく、再クレオール化が生じてクレオールの特徴が失われにくいとされる。このことが手話言語同士が音声言語同士よりも互いによく似ていることや、国際手話の有効性を高める要因になっていると考えられている。
サインデックス
sIGNDEX
手話情報学研究会が提案している手話表記法。音声/音韻表記ではなく、動画像とのリンクを前提とした手話単語ラベルと非手指要素の記号からなる。同時的表現の記述を線条的に展開できる、特殊なフォントを用いない、HTMLの制御コードの除外しているなど、電子情報としての利用を念頭に置いた配慮がなされている。2005年4月現在、単語は545語、非手指要素は14種97項目が記号化されている。[サインデックス(手話情報学研究会サイト)
サインライティング
SignWriting
ダンスの振り付けの表記法をもとにサットン(Sutton)氏によって考案された手話表記法。手話言語の正書法として、新聞、雑誌、辞書、文学、手話学習用、そしてろう教育における教科教育、音声言語(の読み書き)の教育と、ありとあらゆる状況で用いられることを想定している。ラテン文字がさまざまな言語の正書法に採用されているように、世界中の手話言語の正書法として用いることができるとしている。電子化にも対応しており、サインライティング・コミュニティとも呼べる広がりを見せている。日本では手話訳聖書の発行で知られる日本ろう福音協会がサインライティングの普及に取り組んでいる。[サインライティング公式サイト
ジェスチューノ
GESTUNO
世界共通手話の制定をめざして1975年に出版された語彙集の題名。「GEST=身振り」と「UNO=一つ」からの造語。1961年に世界ろう連盟の中に手話統一特別委員会が設置され、15年の歳月をかけて出版にこぎつけた。しかし、国際政治上の配慮から西側諸国と東側諸国から同数の語彙を恣意的に採用するといった戦略が語彙集の実効性を弱めたこと、1979年のブルガリアでの第8回世界ろう者会議でのジェスチューノ通訳が失敗に終わったことなどを受けて、1981年以降世界ろう連盟はジェスチューノ・プロジェクトの継続を断念した。現在、ろう者の国際交流で用いられているのは「ジェスチューノ」ではなく、ピジン手話である「国際手話」である(しばしば両者は混同されるが、根本的に別のものである)。「ジェスチューノ・プロジェクトは、言語は委員会によってつくられるものではなく、自然に発展するものである、という教訓を残した」(ムーディ2004)。
指示対象のシフト  しじたいしょう─
referential shift
→レファレンシャル・シフト
シムコム
sim-com
→日本語対応手話
借用(語)  しゃくよう(ご)
borrowing; loan signs
ある言語が他の言語から要素(おもに語)を借りること。借用語は「外来語」とほぼ同じ意味(ただし、日本語では「外来語」はおもに西洋語由来のものに用い、漢語は含まないが、漢語も借用語である)。借用語は、形式がその言語に合わせて変化するだけでなく、もとの言語にはない独自の意味用法を獲得する場合も多い。和製英語のように新たに語が作り出されることもある。翻訳借用は複合語の構成だけを借用したもので、「superman」の構成を借りた「超人」などがその例である。手話言語の借用でも同様の現象がおこる。ただし、手話言語同士ではなく、音声言語(あるいはその読み書き)からの借用の場合には、モダリティが異なることによる独自の現象も生じる。たとえば、借用の手段には、マウジング指文字、指文字語、漢字語、漢字の翻訳借用などさまざまな方法がある。また、マウジングの場合、手指で表現される語と同時におこるのがふつうであるが、これは日本語(漢語)に外来語のルビをふる現象に似ている。
手話言語学会  しゅわげんごがっかい
Sign Language Linguistics Society, SLLS
2004年に創設されたばかりの手話言語学の国際学会。TISLR8(2004年10月、バルセロナ)で、TISLR開催の安定化と内外への情報提供を図る目的で学会を創設することが正式に承認された。isla(イズラ;International Sign Language Association)が資金難で解散して以降、手話言語学界には国際的な恒常的組織がなく、手話言語学の国際大会であるTISLRもその都度組織委員会を立ち上げる形で実施されてきたが、アムステルダムで行われたTISLR7が十分な資金を準備できずにろう研究者のアクセスに問題を生じたことなどから、国際組織の創設を求める声が高まっていた。暫定理事会の理事長は Anne Baker、次期大会までの会費は75ユーロ(学生30ユーロ)。[Sign Language Linguistics Society
手話言語の数 ろう学校が設立されるなどしてろう者のコミュニティが形成された地域には、他の地域からの伝播がない限り独自の手話言語が誕生する。手話言語が伝播した後、独自に発展して異なる手話言語になった場合もある。そのようにして世界中に分布している手話言語がいったい全部でいくつあるのかははっきりとはわからない。ちなみに、言語に関するデータベース『エスノローグ:世界の言語(Ethnologue: Languages of the World)』の第15版には、121の固有名をもつ手話言語が収録されている。[エスノローグ・ウェブ・バージョン
手話言語の認知  にんち
recognition of sign language
手話言語が国家や地域において法的な地位を与えられること。手話言語の話者の権利が法的に明文化されている国は2005年4月現在27カ国あるとされる。世界ろう連盟によると、その内訳は、憲法で認められている国が9カ国(ブラジル、コロンビア、エクアドル、フィンランド、ポルトガル、南アフリカ、スイス、ウガンダ、ベネズエラ)、法律や政策で認められている国が22カ国(オーストラリア、ベラルーシ、カナダ、コロンビア、チェコ、デンマーク、エクアドル、フィンランド、アイスランド、リトアニア、ニュージーランド、ノルウェー、ペルー、ポーランド、スロヴァキア、スウェーデン、スイス、ウクライナ、アメリカ、ウルグアイ、ジンバブエ、ドイツのいくつかの州)である(重複4カ国)。これに、すでに法案が提出されているメキシコと台湾、政府が手話の認知に関する声明を出したイギリスがまもなく加わることになりそうである。日本では2005年4月、日弁連が「手話教育の充実を求める意見書」の中で、「国は、手話が言語であることを認め、(略)聴覚障害者が自ら選択する言語を用いて表現する権利を保障すべきである」としており、今後の動向が注目される。参考文献:手話コミュニケーション研究第50号。[世界ろう連盟「手話に関する概要報告書(英語)」][台湾・国家言語発展法草案(全日本ろうあ連盟サイト)][ニュージーランドにおける手話認知の動向(同サイト)
手話語族  しゅわごぞく
sign language family
語族とは共通の祖語から派生したと考えられる諸言語の総称で、音韻的、語彙的、文法的な対応がみられる。手話言語にも語族があることが指摘されている。つまり、伝播によって広がり、その後独自の発展を遂げた二つ以上の手話言語が存在するのである。欧米などに広く分布するフランス手話語族、元大英帝国であった国々を中心に分布するイギリス手話語族、日本手話、韓国手話、台湾手話が属する日本手話語族が有名。日本手話語族の場合、その形成は植民地支配という負の歴史の産物である。参考文献:Johnston2003市田2003(全国ろう児をもつ親の会編)
性差  せいさ
gender differences
話者が男性であるか女性であるかによって言語表現が異なること。あらゆる言語にはある程度の性差があるが、その差異の大きさは言語によって異なる。日本語は性差が大きい言語であるが、日本手話はそれに比べるとずっと性差が小さい。ただし、以前はいまよりも性差が大きかったとする証言もある。外国に目を転じると、アイルランド手話はかつて男性の手話と女性の手話が大きく異なっていたという。これは19世紀半ばから約100年間にわたって、ろう学校が男女別に分かれていたことに起因する(LeMaster & Dwyer 1991)。参考文献:米内山2003
世界ろう連盟
 せかいろうれんめい
World Federation of the Deaf, WFD
1951年に創設された現在127カ国が加盟するろう者の国際組織。フィンランドのヘルシンキに本拠を置き、国連の諮問機関として各国のろう者(とりわけ手話を話す人々および発展途上国のろう者)の権利を守る活動を行っている。そのおもな役割として、手話言語の地位の向上、ろう教育の改善、情報やサービスへのアクセスの向上、発展途上国のろう者の人権の回復、ろう者の組織化の推進をあげている。手話に関しては、手話の認知と手話を用いるろう者の権利、ろう児が幼少期から手話にふれる権利、手話研究の援助の増大、手話教育の質の向上、手話通訳の質の向上、メディアにおける手話の使用可能性の拡大などを推進している。4年に1度、世界ろう者会議を開催しており、次回開催は2007年スペイン・マドリードの予定。[世界ろう連盟
セミリンガル
semilingual
ひとつも確かな言語をもたない状態、あるいはそのような人。帰国児童、国際結婚家庭や移民家庭の子どもの中には、不安定な言語環境によってセミリンガルに陥るケースがみられる。これは、臨界期までに安定した母語環境がないと言語能力に深刻な影響を及ぼす可能性があるということを示している。ろう児の場合も、臨界期までに手話の環境が与えられず、しかもインテグレーションによりろう児コミュニティから切り離されてしまうと、セミリンガルのリスクが高まる。
【た】

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対応手話  たいおうしゅわ →日本語対応手話
ダイグロシア
diglossia
社会的に地位の高い言語(H言語)と地位の低い言語(L言語)が併存し、場面や内容によって使い分けがある状態のこと。もとはファーガソン(Farguson1959)の用語で一言語内の変種の併用に用いられたが、現在ではニ言語間の現象にも用いられる。ろう者コミュニティでは、音声言語(読み書き)がH言語、手話言語がL言語であり、公的な場やメディアでは音声言語に則して手話単語を用い、日常会話では手話言語を用いるという習慣があった。この状況は、手話言語の社会的地位の向上やろう者の意識の高まりによって変化しつつある。なお、個別的な使い分け(切り替え)はコード・スイッチングと呼ばれる。
直接法  ちょくせつほう
direct method
語学教育において、学習者の母語や媒介語を用いずに目標言語だけを用いて教育する方法の総称。聴者に対する手話教育であれば、学習者の母語である日本語を用いずに、手話だけで手話を教える方法すべてをさす。具体的な教育理論・指導技術にはさまざまなものがある。手話教育においてよく知られるナチュラル・アプローチやコミュニカティブ・アプローチは直接法の一種である。
ティズラ
Theoretical Issues in Sign Language Research, TISLR
「手話研究における理論的問題」という名をもつ手話言語学の国際会議。1986年にロチェスターで第1回大会が開かれてから2〜4年ごとに開催されてきた(第2回・ワシントンDC(ギャロデット大学)・1988、第3回・ボストン・1990、第4回・カリフォルニア・サンディエゴ・1992、第5回・カナダ・モントリオール(ケベック大学モントリオール校)・1996、第6回・ワシントンDC(ギャロデット大学)・1998、第7回・オランダ(アムステルダム大学)・2000、第8回・スペイン(バルセロナ大学)・2004)。次期大会は2006年12月6日〜9日にブラジル・サンタカタリーナ連邦大学で開催される。[次期大会論文募集(SLLSサイト)
デフファミリー
deaf family
ろう者の夫婦のもとにろう児が生まれるなどして、家族の構成員に二代以上にわたってろう者が含まれるような家族のこと。デフファミリー出身のろう児はろう児全体の約10〜15%を占める。幼少期から手話言語を獲得する機会を与えられるので、言語発達の面で通常の発達が期待できる。そのため、他のろう児に比べて安定した発達基盤をもち、あらゆる面で優秀な成績を示す場合が多い。
【な】

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ナチュラル・アプローチ
natural approach
クラッシェンとテレルが提唱した語学教授法。…〔編集中〕… 参考文献:クラッシェン/テレル1986、市田・木村1998
日本語対応手話
 にほんごたいおうしゅわ
Signed Japanese
Manually Coded Japanese
日本語に則して手話単語を用いる方法の総称。厳密には「手話言語」ではないため、この呼称には問題がある。「シムコム(Sim-Com; Simultaneous Communication=同時的コミュニケーション)」「手指日本語(signed Japanese や manual Japanese の訳語)」とも呼ばれる。日本語の助詞や助動詞を表すために指文字や特別に考案された記号を使用して、日本語を可能な限り厳密に表現しようとするものから、単に日本語を話しながら対応する手話単語を並べ、助詞や助動詞など対応する手話単語がない部分は口形や文脈で補うものまで幅がある。また、日本手話の文法的特徴のうち、日本語を話しながらでも利用可能なものについて積極的に取り入れる場合もある。話者が日本手話を獲得している場合とそうでない場合では、日本手話母語話者にとって理解しやすさに格段の差がある。しかし、いずれの場合も、手話として見た場合には一貫した構造を欠き、その理解には日本語の知識とその知識にもとづいた推論が要求される。また、日本語を話しながら同時に手話単語を表現することから、話者に大きな負担がかかり、日本語か手話単語のどちらか、あるいは両方に欠落やエラーが生じることが少なくない。ろう教育において日本語対応手話が使用された場合、ろう児が日本語対応手話を母語として獲得することは理論上ありえず、実際にはダイグロシア的状況(日本手話もしくはクレオール手話と日本語対応手話の使い分け)が生じる。
日本ろう福音協会
 にほんろうふくいんきょうかい
Japan Deaf Evangel Mission
手話訳聖書の製作を手がける団体。SignWritingの普及活動でも知られる。[日本ろう福音協会
【は】

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バイリンガル教育
bilingual(-bicultural) education
おもに少数言語話者に対し、母語を基盤とし、社会的に優勢な言語を第二言語として導入して、母語と第二言語の二つの言語で教育を行うこと。第二言語への移行に重点を置く場合と、母語の維持に重点を置く場合がある。ろう教育におけるバイリンガル教育は、手話言語を母語とし、読み書きを第二言語として位置づける教育を意味する。口話主義への反省の上に立ち、確かな母語の確立、安定した発達基盤の形成、学力の向上をめざす。北欧や北米を中心に実践され成果をあげており、世界各地に広まりつつある。日本のろう学校では奈良校などごく一部で実践されているにすぎない。近年、バイリンガル教育を実践するフリースクールが各地に設立され、2003年5月には手話による教育を求める子どもとその親たちによる人権救済申立も行われた。これに対し日弁連は2005年4月13日「手話教育の充実を求める意見書」を公表した。[龍の子学園][全国ろう児をもつ親の会
ハムノーシス
HamNoSys
ドイツ・ハンブルグ大学の研究グループが考案した手話表記法。電子化にも対応し、フォントが配布されている。日本語版ガイドブックも出版されている。[ハムノーシス公式サイト
非手指要素(/動作/信号)
 ひしゅしようそ
non(-)manual(s) ; NMS
nonmanual components /...behaviors /...signals
手話言語の一部としての手指以外の要素。「NMS」とも呼ばれる("non-manual signals" の略)。顔の表情(眉、まぶた、視線、口型)、頭の動きと位置、上体などがある。手話言語の非手指要素には、一般的な身振り的機能(顔の表情には手話言語においても話者の感情を伝達する機能もある)のほかに、それとは区別される言語的な機能がある。具体的には、副詞・動詞などの語彙的な機能、節構造やモダリティなどを標示する統語論的・語用論的な機能である。特に後者は、音声言語のイントネーションに相当すると考えられている。
ピジン
pidgin
母語の異なる者同士が接触する場面で生じる混交言語。ビッカートンのいう「原型言語」のひとつであり、一貫した言語構造を欠いているため、ピジンが話される社会に生まれた子どもたちはピジンをそのまま習得せずにクレオールを生み出す。手話言語に関わるピジンには、手話と音声言語の間のピジンと、手話言語同士のピジンがある。両者とも、音声言語同士に生じるピジンと共通する面もあるが、異なる部分も少なくない。前者には、二つの言語のモダリティが異なることで生じる特異な現象が存在し(ピジンという用語を避けて「接触手話(contact signing)」と呼ぶ研究者もいる。Lucas & Valli 1992)、後者にもモダリティ特有の戦略が二つの言語に共有されているために生じる特徴がみられる。モダリティに依存する文法の共通性の高さ(再クレオール化も参照)と手話自体のジェスチャー・パントマイムとの親和性の高さから、手話間のピジンは音声言語間のピジンよりも高度な内容を話すことができる。その代表例が国際手話であるといえよう。参考文献:スパラ/ウェブ2002
表記法  ひょうきほう
notation/transcription
手話を動画や写真・イラスト以外の方法で書き留めるために考案された方法。ハムノーシス(HamNoSys)サインライティング(SignWriting)が有名。日本では手話情報学研究会がサインデックス(sIGNDEX)を提案している。
ベビーサイン
baby signs
聴こえる赤ちゃんと手話でコミュニケーションしようという実践。乳児にとって手指運動は発声器官のコントロールよりも容易であるため、音声言語獲得前の乳児に手話単語を教えれば、乳児は自分の要求を伝達でき、親子間のフラストレーションが軽減するとされる。1990年頃にアメリカで始まったが、1990年代半ばに言語能力の発達にも寄与するとの研究結果が発表されて以来、世界中に広まりつつある。手話言語の母語獲得とは異なり、単語のみの学習に終わり、音声言語発達後は急速に使用されなくなる。手話関係者からは、ろう者のコミュニティとアイデンティティにとっての手話の重要性に対する無知・無理解を指摘する声も多い。「もし本当に子どもに手話を教えたいのであれば、ろうのベビーシッターを雇うことだ」という言葉には、ろう者のベビーサインへの複雑な思いが凝縮されている。[日本ベビーサイン協会
ホームサイン
home sign
孤立した聴覚障害者が周囲の人々とのコミュニケーションに用いる手段。ビッカートンのいう「原型言語」のひとつと考えられ、「真の言語」としての構造を欠くことから、手話言語とは区別される。その他、ホームサインの特徴としては、個人的であること、一般の身振りとの共通性が高いこと、動作が大きいこと、表情が感情の伝達と物まねとしての機能しかもたないこと、流暢でないこと、文脈依存であることなどがあげられる。参考文献:Kegl, Senghas, & Coppola 1999
【ま】

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マウジング
mouthing
手話言語の一部として用いられる音声言語由来の口型のこと。臨時の借用の場合は制約はないが、手話言語の一部として用いられる場合は制約が多く、その形も手話言語のリズムに合わせて変形させられる。一般にマウジングは動詞や形容詞よりも名詞に多く現れるとされ、日本手話でも同様である。ただし、日本語の「名詞+する」という形をとる動詞に対応する日本手話の動詞には、日本語の名詞部分のみのマウジングが高い頻度で現れる。その他の動詞でマウジングが現れるのは基本語彙に限られる。形容詞にはマウジングが現れにくく、現れた場合は強調や皮肉といった特別な意味をもつことが多い。接続詞や助動詞などの機能語にはマウジングが現れることが多いが、そのほとんどは日本語では機能語ではない語のマウジングである(接続詞では「ちょうど、理由」、助動詞では「必要、希望、終わり、まだ、意味」など)。
マウス・ジェスチャー
mouth gesture
手話言語の一部として用いられる音声言語と無関係な口型のこと。述語に共起して副詞(非手指副詞)や形容詞として機能するもの、アスペクト標識として機能するもののほか、エコー音韻論や演技口型と呼ばれるものがある。
目標言語  もくひょうげんご
target language
【1】語学教育・学習において習得しようとしている言語のこと。日本語教育なら目標言語は日本語である(直接法も参照)。聴者に対する手話教育は、目標言語が必ずしも日本手話であるとは限らない点に注意が必要である(日本語対応手話を参照)。
【2】通訳において、訳出しようとする言語のこと。日本語から手話への通訳であれば、目標言語は手話である(⇔起点言語)。通訳においては通常、目標言語が母語である場合のほうが、目標言語が第二言語である場合よりも容易であるとされる。つまり、聴者である手話通訳者にとっては日本手話から日本語への通訳(いわゆる「読み取り通訳」)のほうが容易ということになる。
モダリティ
modality
【1】言語を伝達する媒体・様式のこと。音声言語が「聴覚-口頭(auditory-oral)モダリティ」をもつのに対して、手話言語は「視覚-身振り(visual-gestural)モダリティ」をもつ。人間の言語がもつ構造は普遍的であり、その点では音声言語と手話言語はまったく同等な構造をもつと考えられるが、一方で言語にはモダリティに依存する特徴もあり、その点では音声言語と手話言語は異なっているということになる。手話言語の研究によって、これまで音声言語だけを前提としてきた「言語の普遍性」に関する議論が修正され、真に普遍的な言語構造というものが明らかになることが期待されている。
【2】文法範疇のひとつで、話し手の態度のこと。対事モダリティ(命題めあて)と対人モダリティ(話し相手めあて)に分けられる。
モノリンガル
monolingual
ひとつの言語しか話さない(話せない)状況、あるいはそのような人。日本手話の母語話者の中には、口話主義下の不十分な教育環境の中で日本語の読み書きを習得できなかった者も少なからずいる。公的な場では日本語に則して手話単語を用いることが求められるダイグロシア社会においては、モノリンガル話者は公的な場に立つ機会を与えられないなど、ある種の社会階層化が生じることもある。また、手話が言語として社会的に認知されていない状況では、人物評価や各種試験が日本語を通して行われる限り、モノリンガル話者は能力を不当に低く評価されることになる(バイリンガル話者も第二言語による評価では能力を不当に低く評価される可能性があり、程度の差はあれ本質的には同じ問題を抱えている)。
【や】

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指文字  ゆびもじ
manual alphabet
finger spelling
音声言語の文字に対応した記号体系の総称。その多くは、手話言語の一部として音声言語(読み書き)の借用に用いられる。臨時的な借用のほか、手話語彙化した指文字語、手話単語の手形を頭文字の指文字に置き換えた頭文字語、接頭辞・接尾辞的に手話単語と結合した指文字接辞語などがある。現在世界で広く用いられているラテン文字系の指文字は、「沈黙の行」で知られるベネディクト派修道院で修道士らによって使用されていた指文字が、スペインのデ・レオン(1520-1584)によってろう教育に応用され、その後世界最初のろう学校であるパリろう学校を通じて世界中に広まったもの。イギリスで用いられている両手指文字はまったく系統の異なる独自のもので、オーストラリアやニュージーランドでも用いられている。日本の現行の指文字は、大曾根源助ら大阪市立聾唖学校のグループによって1929(昭和4)年に考案されたもので、ラテン文字系指文字であるアメリカ指文字をもとに、足りない文字を独自に作成することによって作られた。ただし、全国的な普及をみたのは昭和40年代に入ってから。なお、現行の指文字以前にもいくつかの指文字が考案されており、図版として残っているもののほか、高齢者によって記憶されていて最近になって記述されたものもある。参考文献:神田1986
【ら】

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臨界期  りんかいき
critical period
その時期を過ぎると母語の獲得が不完全になるような年齢のこと。最初に指摘したレネバーグ(lenneberg1967)は10〜12歳であるとした。最近は言語の各側面によって臨界期が異なると考えられており、音韻は3歳、文法は6歳、その他の言語技能は12歳前後とされる。臨界期までに安定した母語環境が与えられないと、セミリンガルになるリスクが高い。
レファレンシャル・シフト
referential shift
話者が引用された発話の話者や描写された行動の動作主の表情や動きを演じること。以前は「ロールシフト」と呼ばれていた。引用型のシフトと行動型のシフトの二つのタイプがある。参考文献:小薗江ほか2000。
ロールシフト
role shift
→レファレンシャル・シフト
【わ】

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話者人口  わしゃじんこう
signer population
speaker population
ある言語を話す人の数。母語話者人口と非母語話者人口に分けられる。日本手話の話者人口については信頼できるデータがない。厚生労働省の平成13年度身体障害者実態調査では、聴覚障害者のうち手話使用者の数は4万7千という数字が出ている。一方、植村2001は手話話者人口は8万人程度としている。市田ほか2001は各種統計資料から日本手話母語話者人口を推計し、約6万という数字を得た。この数字は、日本で話されている少数言語の中で、中国語、英語、韓国・朝鮮語、ポルトガル語、スペイン語についで6番目に多い。ちなみにアメリカ手話は、アメリカでフランス語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語についで5番目に話者人口の多い少数言語であるとされる。
【アルファベット】

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CL構文  ─こうぶん
classifier constructions
CL手形を使用した構文。CL手形と運動形態素の結合形式が、さらに手話空間内の位置関係(手の向きや両手の位置関係を含む)と結びついたもの。手形、運動、位置の各要素が意味をもつ(一音節多形態素(monosyllabic-polymorphimic)構造。ただし、位置は無限の要素があるため非言語的であるとみなされており、厳密には形態素ではない)。手話の語彙レベルおよび空間表現において図像性を利用する際に用いられる。フリージング(凍結)することによってフローズン語彙となる。手話言語の語彙の源泉である。その造語能力から "productive form"(=プロダクティブ・フォーム)とも呼ばれる。参考文献:Emmorey (ed.) 2003
CL(CL手形)  (─しゅけい)
classifier (handshapes)
"classifiers" とは名詞のクラスを標示する要素のことをさし、一般には「類別詞」または「分類辞」と訳される。日本語の助数詞(「〜枚」や「〜本」など)は数えられるものの属性によるクラス(「薄いもの」「細長いもの」)を標示するclassifierである。手話言語においては図像的表現に用いられる手形のことをいい、「CL」あるいは「CL手形」と呼ばれる。全体CL(whole entity CL)、操作・道具CL(handling/instrumental CL)、手足CL(limb CL)、拡張CL(extension CL)などの種類がある。運動形態素と結合してCL構文を形成する。なお、これらの手形をclassifierと呼ぶことには議論もある(Emmorey2002: 87-91, Schembri2003)。参考文献:Allan1977Engberg-Pedersen1983
NMS
nonmanual signals
→非手指要素
TISLR
Theoretical Issues in Sign Language Research
→ティズラ
 
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