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手話言語:日本手話 |
音声言語:日本語 |
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手話の音韻的パラメータには、手の「形」「位置」「運動」があり、第4のパラメータとして「向き」をあげる場合があります。「運動」が母音、「位置」が子音に相当し、「手形」は声調などと同じ超分節音素であるとみる研究者もいます。 |
音声言語の音素には、母音と子音があります。 |
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手話の音節は、3つ(ないし4つ)の音韻的パラメータが同時的義務的に結合することによって形成されます。音節内の継起的な構造を強調する研究者もいます。 |
音声言語の音節は、母音を中心として、その前後にいくつかの子音を任意に並べることによって形成されます。 |
1-3 |
手話の語彙には図像性をめぐって対立する二つの領域があります。図像性を利用する領域「CL構文(classifier constructions)」と、図像性を利用しない領域「フローズン語彙(frozen lexicon)」です。
フローズン語彙の多くは、CL構文が「フリージング(凍結)」することによって生まれます。 |
音声言語にも図像性を利用する「オノマトペ」という領域がありますが、手話のCL構文に比べると、はるかに周辺的な領域であるのは否めません。
ただし、オノマトペが語彙の源泉である点は手話言語と同様です。 |
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CL構文は、身振り的要素を組み込んでおり、特に位置パラメータの要素や運動の配列パタンは無限です。それに対して、フローズン語彙の構成要素は、それ自体意味をもたない少数の単位からなるという“音韻”の条件を完全に満たしています。形態論的にはCL構文は各パラメータがそれぞれ形態素であり、一音節多形態素構造をもつのに対して、フローズン語彙は一音節が一形態素からなるという違いもあります。 |
日本語のオノマトペも、オノマトペにしか用いられない音素や音素配列があるという意味で、音韻論的に特別な地位をもっています(ただし、音素の種類や音素配列のパタンは有限です)。また、形態論的にも、最終音節の撥音・促音(どん、ぱっ)、重畳形(がたがた)、「*Q*り」形式(ざんぶり、ずっぽり)など、日本語のオノマトペは通常の語彙とは異なる特徴をもっています。 |
1-5 |
日本手話では、日本語からの借用のために用いられる漢字語や指文字語は、音韻論的形態論的に特別な地位をもっています。また、数詞や数詞を組み込んだ語彙にも特別な音韻論的形態論的特徴があります。 |
日本語では、本来語(やまとことば)と漢語とカタカナ語ではそれぞれ音韻論的・形態論的制約が異なります。また、数詞にも特有の現象が多くみられます。 |
2-1 |
日本手話の動詞の語形は、語彙的アスペクト(点性、下位事象の反復性、持続性)を図像的に反映しています。さらに、継続相、反復相、起動相などを表す語形変化があります。 |
日本語の動詞の語形は、語彙的アスペクトの特徴を反映していません。また、アスペクトは「〜ている」などの補助動詞や「〜し始める」などの迂言的表現によって表されます。 |
2-2 |
日本手話では、身体前の空間が言語的に利用されます。その利用は具体的には、指差しや視線の向き、手指運動の構えや起点・終点、掌の向きなどを、空間の特定の位置と関連づけることによって行われます。また、身体前の空間に指示物が写像される時、話し手の身体もその空間表現のシステムの一部として組み込まれます。 |
音声言語では、言語的要素と同時に表出されるジェスチャー要素が話し手自身の身体と身体前の空間を利用して何らかの意味を伝達することはあっても、言語的要素自体は音声を媒体としているので、空間を利用することはありません。 |
2-3 |
空間への指差し(代名詞)や動詞の空間的な語形変化(動詞の一致(verb agreement))は「人称」ではなく、指示物と認識者/観察者の「物理的な位置関係」や「抽象的な関係(心理的近接性/制御可能性)」、および「数」を標示しています。 |
音声言語の動詞の一致や代名詞は、「数」のほか、「人称や性」を標示するものが多いですが、日本語の指示詞(「こ、そ、あ」の体系)のように物理的心理的な距離を表すものもあります。 |
2-4 |
引用された発話の話者や描写された行動の関与者の表情や身振りを再現することを「レファレンシャル・シフト(referential shift)」あるいは「ロールシフト(role shift)」と言います。 |
音声言語にも、「直接話法」という、引用された発話の話者の言語的・非言語的特徴を再現する表現があります。しかし、描写された行動の動作主の表情や身振りを再現する表現は手話言語特有のものです。 |
2-5 |
視線のシフトには視覚とその他の知覚、および思考を表す動詞としての機能があります。その際、目の開き方と眉の位置、および頭(あご)の位置(いずれも有限の要素からなる)が様態副詞として機能します。 |
音声言語と同時に起こる視線のシフトは、発言権の確保などコミュニケーション上の機能や、ジェスチャーとしての機能しかもたず、言語的構造に組み込まれることはありません。 |
2-6 |
手話言語の口型には手話特有の口型(マウス・ジェスチャー)と音声言語から借用した口型(マウジング)があります。特有の口型と頭(あご)の位置の結合は、形容詞や動詞と共起することによって非手指副詞(様態副詞、程度副詞)として機能
します。 |
音声言語では、様態副詞や程度副詞は形容詞や動詞とは独立した語彙として表現される。 |
2-7 |
文末に現れる頭の動きは、特定の頭と位置と眉の位置と結合し、文タイプ(平叙文、yes/no疑問文、wh疑問文、命令文など)とモダリティの標識となります。 |
音声言語
のイントネーションにも同様の機能がありますが、そのバリエーションは日本手話の頭の動きのバリエーションの豊富さ(数十種類以上)には遠く及びません。 |
2-8 |
日本手話の基本語順はSOVです。ただし、動詞の一致などの空間利用がある場合、語順の自由度は高まります。また、話題化や焦点化による語順の交替もあります。その場合は、切り出した名詞句との境界に特定の頭の動きによる標識が現れます。 |
日本語は助詞による格標示があるため、主語、目的語、動詞の語順は比較的自由です。日本語の話題化の標識には「は」などがあります。 |
2-9 |
話題化や焦点化の標識である頭の動きは、補文などの埋め込み構造の標識にもなります。また、補文と同じ構造をもつ主要部内在型関係節は、日本手話の主要な関係節構造です。 |
日本語の補文標識には「の」「こと」などがあります。日本語にも主要部内在型関係節はありますが、意味的な制約が強く働きます。 |
2-10 |
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3-1 |
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